農研機構に面白い研究が掲載されています。
慣行栽培においてのリン酸施肥量の削減技術ですが、見方によっては大変参考になります。
最近は肥料価格の高止まりに対応するため、購入肥料を少なく抑えつつ品質を上げるための技術が盛んに研究されるようになってきました。
植物における3大栄養素である窒素、リン酸、カリ。世界の農業はそれを化学肥料で補いながら農産物を生産しています。併しながらそれら化学肥料の原材料は一部の資源国が生産しており、日本はその原材料をほぼ100%輸入に頼っている国であることを知っておかねばなりません。
世界の人口増、生活スタイルの先進国化(肉食の増加)やバイオ燃料の普及が農産物の需要を増加させ、その需要を満たすための生産活動に化学肥料が投入されているのです。化学肥料の価格がここ数年で高止まりしているのは、そうした農産物需要の増加に伴って肥料の需要が高まった結果です。
実は、世界の殆どの農産物は天然鉱物資源に支えられているのです。
肥料に使われるリンもカリも鉱物資源であり、農業機械を動かすのにも石油が手放せない。
枯渇という終わりがあるのに、その上に私たちの食糧生産が成り立っている現状は非常に危険です。
残念ながら日本の多くの農業もその資源の恩恵を受けています。燃料や農薬、化学肥料だけでなく、有機栽培で使われる食品残渣や家畜糞尿なども、元をたどるとその上流に鉱物資源が投入されている場合がほとんどです(窒素は空気中の窒素を固定して作られるが、固定には電気が使われる。電気も石油やウランなど鉱物資源に拠る所が大きい)。
大量の食べ残しや食品廃棄物は将に近代農業(産業)が生み出したものではありますが、有機農業でそうした「あまりもの資源」を積極的に使うことが、「無駄をなくす」ということにつながるとは思えません。 なぜなら世界中から集まった鉱物資源を畑に投入する慣行農畜産業も、そこから出た無駄(食品ロスや家畜糞尿)を再利用する(一部)有機農業も根本的には変わらないと思うからです。
慣行も有機も、残念ながら現状では集めた鉱物資源を食べ物に変換する手段でしかなく、最終的には焼却され、埋め立てられる運命をたどります。畑はその通過点になっているのが今の農業を取巻いている状況なのだと思います。
人間は太古の昔から、永い永い取捨選択によって自然と共生してゆく知恵を身に着け、恩恵を享受してきました。人間と自然と、絶妙なバランスで折り合いを着けて生きるための知恵です。 先人たちは、人が自然を侵せば、自然は必ず自分たちの身に災厄をもたらすことを身を以て知っていました。 だからこそ自然を畏怖し神とさえ崇めていたのです。先人達は、神たる自然、山や川、土や植物を必要なだけ管理し、自然の生態系(神の理)を維持しつつ生きる為の素地を築き上げてきたのです。 人々の食は田畑を中心として無駄なく循環し、あらゆるものが土に還元しつつ、新たな糧を産んでいました。それがごく最近まで続いていたのです。
そして昨今、農業生産の問題解決の為に研究されている農業技術の多くが、伝統的に行われてきた農法に符号が向いているように感じます。 土着菌の有用性の解明や、輪作、間作、混植による生産性の向上、緑肥による施肥技術の開発等、これらは一度は表舞台から姿を消した知恵の一つでもあります。
それらが復活する向きは、一体何を示しているのでしょうか。
このまま化学肥料の原材料価格が上がるか、鉱物資源が枯渇すれば、高いと云われていた有機野菜の価格が逆転するのではないかと思います。その頃には慣行農業でも肥料の「有機化」が進み、有機農業も今よりずっと増えているはずです。併しながらその時代には、今のように有機資源を自由に使うことが難しくなります。すると利用出来る資源の生産地域がだんだんと狭まり、昔のような地域循環型の農畜産業に転換が進んでゆくと考えられます。そう考えると、先人たちの知恵がますます重要に思えてなりません。
併し数千年にもわたって連綿と受け継がれてきた知恵のリレーは、私たちの世代で途切れようとしているのです。
私たちは今一度、先人たちの農業と食文化を見直し、一方通行の資源に頼ることなく食糧を自給してゆくことを考える時期に差し掛かっているのかもしれません。
資源に頼っている限り、食糧生産のための原料を100%国外に頼っている日本の食糧自給率は0%に限りなく近いと云えます。
Columnーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
■窒素・リン・カリ、廃棄物から見た資源の行方
食品廃棄物は年間1700万トンに上り、焼却処分され最終処分場に埋め立てられる。処分されずに利用されているのは2割にとどまる。
然も、食品廃棄物には第一次産業つまり生産の現場で捨てられるものは含まれていない。規格外品の廃棄に始まり、殆どの生産現場で使われているF1種子は、一斉に発芽成長する野菜であり、出荷時期を逃した物はほぼ廃棄処分される。価格調整による廃棄も無視できない。(データがないのでこれ以上は控える)。
飼料を消費する畜産においては、可食部分や排泄物は殆どが農業に再利用されてきたが、農耕地では、環境容量を超えて過剰に、あるいは野積み、素ぼり状態で施用されることもあり、地下水汚染が新たな環境問題として浮かびあがっている。
湖水の富栄養化は、上流域の農畜産業の影響が大きい。
また、これら食品を消費した人間の排せつ物も、最終的には焼却され、埋め立てられている。
現状の肥料や農産物の輸入量はその殆どを捨てざるを得なくなるほど過大であると云える。
http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/press/laboratory/harc/055975.html